森の木漏れ日や星空の映像は、なぜ頭を休めるのか デジタル森林浴と「畏敬の念(Awe)」の研究
別の記事で、焚き火の映像と音の研究や、水音・雨音の研究を紹介しました。 この記事では、もうひとつの代表的な自然の景色である「森の木漏れ日」と「星空・雲海」について、なぜ画面越しに眺めるだけでも頭が休まるのか、心理学や視覚の研究で調べられていることを整理します。
1. 森の枝葉や木漏れ日:「フラクタルな形」と注意の回復
オフィスや街の中の景色は、ビル、書類、スマートフォンの画面、文字など、まっすぐな線と直角ばかりでできています。 これに対して、森の木の枝分かれ、葉の重なり、雲の形、打ち寄せる波には、部分を拡大しても全体と似た形が現れる「フラクタル(自己相似形)」という性質があります。
- 注意回復理論(Attention Restoration Theory): 環境心理学者の Kaplan 夫妻(1989, 1995)が提唱した考え方で、仕事や文字を読むときに使う「集中しようとする注意(Directed Attention)」は使い続けると疲弊しますが、木漏れ日や雲、波のように「努力しなくても自然に目が向く穏やかな魅力(Soft Fascination)」がある景色を眺めると、集中力の蓄えが回復しやすいと説明されています。
- 画面越しの「デジタル森林浴」の研究: 実際に森へ出かけられない場面(病院の待合室や病室、都市部のオフィス)で、森の映像と自然音を体験する研究も増えています。たとえば Reese ら(2022)などの研究では、バーチャルな森林体験によっても、体験直後の主観的なストレス感やネガティブな気分が下がる傾向が報告されています。
2. 満天の星空や雲海:「畏敬の念(Awe)」が自分の悩みを小さく見せる
森や水辺とは少し違う働きをするのが、満天の星空や天の川、山の上から見下ろす雲海のような「自分のスケールをはるかに超えた大きな景色」です。
カリフォルニア大学バークレー校の Dacher Keltner や Bai ら(2017)の心理学研究では、広大な自然や星空に出会ったときに生まれる「Awe(畏敬の念・圧倒されるような静かな感動)」の働きが調べられています。
- 「小さな自分(Small Self)」効果と、反芻思考の鎮まり: 人は不安やストレスが強いとき、「自分の悩み」や「目の前の気がかり」ばかりを頭の中でぐるぐると考え続けてしまいます(反芻思考)。 何千光年も離れた星々や広大な空を眺めて「世界は広く、自分は小さな存在だ(Small Self)」と感じると、自分自身への過剰なとらわれがふっと緩み、日常のストレスが相対的に小さく感じられることが複数の実験で示されています。
3. 研究の限界:画面は「本物の自然」の代わりにはならない
一方で、研究を誠実に読むと、画面の映像にははっきりした限界もあります。
- 本物の森を歩くときには、運動による血流の変化、木の香り(フィトンチッド)、風や温度の肌触りがありますが、画面からは光と音しか届きません。
- 比較研究(Browning ら、2020 など)でも、画面や VR の自然は「ネガティブな気分や不安をやわらげる」ことはできても、「活力(ポジティブなエネルギー)を高める」働きでは本物の屋外の自然に及ばないことが報告されています。
したがって、画面の自然映像は「外に出る代わり」ではなく、「待合室や施術室、夜のオフィスなど、今すぐ外に出られない場所で、緊張やとらわれを少し緩めるための窓」として使うのが適切です。
keensense の場合
keensense(キーンセンス)は、この記事を書いている私たちが運営している、自然の景色をウェブのブラウザで映すサービスです。
- 森の散策と滝:木漏れ日の差す森の小道と、奥にある滝を、夜明け・朝・日中・夕方・夜の 5 つの時間帯で映せます。鳥の声とせせらぎの音が流れます。
- 世界 4 か所の星空と雲海:ハワイ(ハプナビーチ)、米国ユタ州(ブライスキャニオン)、スウェーデン(アビスコ)、ニュージーランド(テカポ湖)の実際の星座と天の川、時々流れる流れ星、そして朝・昼・夕・夜の「雲海」を選べます。
- 料金:店舗・クリニック向けの商用ライセンスは月額 9,800 円、年額 98,000 円(1 拠点・画面数無制限、7 日間の返金保証つき)です。
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参考にした資料
- Bai Y, Keltner D et al., Awe, the diminished self, and collective engagement: Universals and cultural variations in the small self, Journal of Personality and Social Psychology (2017)
- Reese G et al., Virtual nature / digital forest bathing and stress restoration research, International Journal of Environmental Research and Public Health (2022)
- Browning MHEM et al., Can Simulated Nature Support Mental Health? Comparing Short, Single-Doses of 360-Degree Nature Videos in Virtual Reality With Roller Coaster Rides and Outdoors, Frontiers in Psychology (2020)