焚き火の映像と音は、なぜ人を落ち着かせるのか。研究と、作る側の視点
暖炉や焚き火の前では、会話が自然とゆっくりになります。 画面に映った焚き火の映像でも、似た落ち着きを感じる方は少なくありません。 この記事では、それがなぜなのかについて、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けてお伝えします。
「映像だけ」では、差が出なかった研究
米国アラバマ大学の研究者が、暖炉の映像を見たときの血圧の変化を調べた研究があります。 3 つの実験で、合わせて 226 人の大人が、「炎の映像に、パチパチという音をつけたもの」「同じ映像の音を消したもの」「何も映らない画面」を、それぞれ見ました。
その結果、音のついた炎の映像を見ているときに、血圧が下がる傾向が出ました。 一方、音を消した炎の映像では、何も映らない画面と、はっきりした差は見られませんでした。 見る時間が長いほど、効果が出やすいという結果でもありました。
つまりこの研究が示したのは、「炎が映っていれば効く」ではなく、炎の映像と、炎の音がそろったときに変化が出た、ということです。 研究者自身も、この結果は「人が火に落ち着くのは、進化の中で身についた反応かもしれない」ことを示す状況証拠であって、証明ではない、と書いています。 文化や、暖炉への思い出が影響している可能性も、残っています。
自然の音は、ストレスからの回復を助けるのか
音に着目した研究もあります。スウェーデンの研究では、計算で緊張した状態にした参加者に、自然の音(噴水と鳥の声)と、騒がしい環境の音を聞かせて、回復の様子を比べました。 皮膚の電気の通りやすさ(緊張すると変わる指標)は、自然の音のほうが、より早く落ち着く傾向がありました。 ただし、心拍の揺らぎなど、ほかの指標では差が出ておらず、結果は一様ではありません。
自然の音の効果をまとめて調べた近年のレビューでも、結果は指標によって異なります。 心拍数や血圧、呼吸数では、静かな環境と比べて違いが見られた一方、「ストレスを感じる気持ち」そのものには、はっきりした差が出ていません。 自然の音は、役に立つ可能性がありますが、「必ずこうなる」と言えるところまでは、まだ来ていません。
作る側から見た、炎が人を引きつける理由
ここからは研究ではなく、私たちが運営する keensense(自然の景色をウェブのブラウザで映すサービス)で、焚き火を作っている側の考えです。 炎は、熱い空気が浮力で立ち上がるときに、毎回少しずつ違う形に揺れます。 同じ形が二度と来ませんが、まったく無秩序でもなく、「立ち上がる」「ちぎれる」「戻る」という流れの感じは保たれています。 予測できそうで、予測しきれない。このちょうどよい不規則さが、目を引きつけつつ、考えごとから注意を離してくれるのではないか、と考えています。
これは、研究で確かめられた説明ではありません。ただ、作るときの判断の基準にはなっています。 録画した映像を繰り返すと、この「二度と同じにならない」感じが失われます。 keensense は、炎・火の粉・煙の動きを、その場で物理のきまりから計算して描いています。
待合室や店舗で使うときの考え方
- 音もセットで考える:研究では、音がそろったときに変化が出ました。ただし、すでに BGM が流れているお店では、音が重なって逆効果になることもあります。その場合は映像だけを流す選び方もあります。
- 長く見てもらえる場所に置く:変化は、時間をかけたほうが出やすい傾向でした。待合室は、その意味でも向いています。
- 効果を言い切らない:「患者さんの血圧が下がる」「売上が上がる」といった言い方は、根拠がありません。「落ち着いた時間をつくる」くらいの言い方が、誠実だと思います。
keensense の焚き火には、音を出す / 出さないを選べる機能があります。 店舗・クリニック向けには、同じ施設内なら画面の台数に制限のない商用利用ライセンスを用意しています。